Sass (SCSS) の @extend ディレクティブを使用すると、他のセレクタに適用されているスタイル定義を継承して使用することができます。
@extend の基本
例えば、.sample クラスのスタイル定義の中で下記のように @extend ディレクティブを使用すると、
.sample {
@extend <セレクタ名>;
}
指定したセレクタに設定されているスタイル定義を、.sample クラスに継承させることができます。
セレクタ名には、クラス名 (.foo) や HTML のタグ名 (em) などを引用符で囲まずに指定します。
下記の例では、.warn クラスに対して設定したスタイルを、.error に継承させています。
.warn {
font-weight: bolder;
border: solid 3px orange;
color: orange;
}
.error {
@extend .warn;
border-color: red;
color: red;
}.warn, .error {
font-weight: bolder;
border: solid 3px orange;
color: orange;
}
.error {
border-color: red;
color: red;
}これで、.warn に適用したスタイルが、.error クラスにも適用されるようになります。
.error クラスは .warn クラスの性質を備えているので、.error クラスを使用するときに .warn クラスを同時に指定する必要がありません。
<div class="warn">警告メッセージ</div>
<div class="error">エラーメッセージ</div>
@extend は親クラスのセレクタ構造も継承する
@extend でスタイルを継承すると、そのスタイルが単純にコピーされたかのように振る舞うだけでなく、特殊化されたスタイル構成も同時に継承されます。
これが、Extend(継承)という名前のディレクティブになっている理由です。
例えば、下記の .warn クラスは、装飾用の .large クラスと同時に使用することで、追加のスタイルを付加できるようになっています(連結セレクタ .warn.large として定義)。
このような構造があるときに、.error クラスから @extend ディレクティブを使って .warn クラスを継承すると、.error クラスの方も .large クラスと組み合わせて使用できるような構造が生成されます。
.warn {
font-weight: bolder;
border: solid 3px orange;
color: orange;
}
.warn.large {
font-size: large;
}
.error {
@extend .warn;
border-color: red;
color: red;
}.warn, .error {
font-weight: bolder;
border: solid 3px orange;
color: orange;
}
.warn.large, .large.error {
font-size: large;
}
.error {
border-color: red;
color: red;
}結果として、.large クラスは、.warn クラスだけでなく、.error クラスとも同時に使用できるようになります。
<div class="warn large">大きな警告メッセージ</div>
<div class="error large">大きなエラーメッセージ</div>@extend で継承できるセレクタと継承できないセレクタ
@extend ディレクティブの構文は、@extend <セレクタ名> ですが、このセレクタ名の部分に指定できるセレクタは種類が限られています。
下記に、継承できるセレクタと、継承できないセレクタの種類の一覧を示します。
継承できるセレクタ
- 型セレクタ(タイプセレクタ) 例:
strong、ul - ID セレクタ 例:
#main - クラスセレクタ 例:
.foo - 連結セレクタ 例:
.foo.bar、p.note、#main.bar - 属性セレクタ 例:
img[src$=".png"]、input[type="text"]、div[data-foo] - 疑似クラス 例:
a:hover、a:active、p:not(.sample) - 疑似要素 例:
p::first-line、blockquote::before
継承できないセレクタ
- 子孫セレクタ 例:
p strong、.foo .bar - 子セレクタ 例:
p > strong、.foo > .bar - 隣接セレクタ 例:
h2 + h3、.foo + .bar - 間接セレクタ 例:
h3 ~ h3、.foo ~ .bar
親子構造を示すようなセレクタシーケンスで定義されたルールは継承できないと覚えておけばよいでしょう。
@extend 専用のプレースホルダーセレクタ (%foo)
@extends ディレクティブからのみ使用するルールセットを作成するには、プレースホルダーセレクタの仕組みを使用します。
下記のように、% で始まる名称のセレクタでスタイルを定義しておくと、そのルールセットは @extend ディレクティブからの継承専用のルールセットとなります(それ自身のルールセットとしては CSS に出力されません)。
%foo {
color: red;
}
このプレースホルダーセレクタの仕組みは、@extend 専用のスタイルを複数定義した Sass ライブラリを作成するときなどに便利です。
また、部分的に共通のスタイルを適用したいセレクタが多い場合、この仕組みをうまく使用することで SCSS コードの可読性を上げることができます。
プレースホルダーセレクタにいかに分かりやすい名前を付けるかがポイントです。
下記のサンプルでは、ボックスシャドウを設定するためのプレースホルダーセレクタ %shadow を定義し、そのスタイルを button 要素と img 要素に適用しています。
%shadow {
box-shadow: 0px 2px 2px rgba(0, 0, 0, 0.29);
}
button {
@extend %shadow;
}
img {
@extend %shadow;
}button, img {
box-shadow: 0px 2px 2px rgba(0, 0, 0, 0.29);
}@extend 対象のセレクタが存在しないときのエラーを抑制する (!optional)
例えば、下記のように @extend で %shadow セレクタを継承するように指定したときに、%shadow セレクタのルール定義が見つからない場合は、Sass プロセッサはエラーメッセージを表示します。
button {
@extend %shadow;
}
Error: "button" failed to @extend "%shadow".
The selector "%shadow" was not found.
Use "@extend %shadow !optional" if the extend should be able to fail.
on line 2 of input.scss
Use --trace for backtrace.
@extend 対象のセレクタが見つからない場合にエラーが発生しないようにするには、!optional フラグを付けて @extend するようにします。
button {
@extend %shadow !optional;
}
上記の例では、プレースホルダ (%shadow) を継承していますが、普通のクラスセレクタ (.foo) を狭小する場合も同様に機能します。
@media ディレクティブ内での @extend の制約
メディアクエリを使用して環境別のスタイル定義を行っている場合、@media ブロックの中での @extend で継承できるセレクタは、同じ @media ブロック内で定義されているものに限定されます。
例えば、下記の例では、@media ブロック内から、ブロックの外で定義された .warn セレクタのスタイルを継承しようとしているのでエラーになります。
.warn {
font-weight: bolder;
border: solid 3px orange;
color: orange;
}
@media print {
.error {
@extend .warn; // エラー!
border-color: red;
color: red;
}
}Error: You may not @extend an outer selector from within @media.
You may only @extend selectors within the same directive.
次のように、同じ @media ブロック内で定義されたセレクタであれば @extend を使って継承することができます。
@media print {
.warn {
font-weight: bolder;
border: solid 3px orange;
color: orange;
}
.error {
@extend .warn; // OK
border-color: red;
color: red;
}
}
これは、メディアクエリの文法による制約です。
将来的な Sass のアップデートにより、@media ブロックの外のセレクタも継承できるようになる可能性はあります。
Sass でメディアクエリを使ったルール定義をスマートに行うには、Mixin の仕組みで @content ディレクティブを組み合わせて使用する方法がお勧めです。